技術的な練習を重ねても、なぜか試合で勝てないと悩むことはありませんか?

ピックルボールは「身体を使ったチェス」とも呼ばれるほど、戦略とポジショニングが勝敗を分けるスポーツです。

自分のショットに自信がなくても、セオリーを知り、賢く立ち回ることで、格上の相手を打ち負かす可能性は十分にあります。

ここでは、試合運びを有利にするための頭脳プレーについて解説します。

  • 立ち位置(ポジショニング)の基本
  • 相手の利き手側を攻める理由
  • ミドルボール問題|誰が取るか明確にする
  • ディンク戦で優位に立つ駆け引き

まずは、コート上のどこに立つべきか、その基本原則から確認しましょう。

立ち位置(ポジショニング)の基本

ダブルスにおいて、二人の動きがバラバラだと、コートに大きな隙間(オープンスペース)ができてしまいます。

上達のためのポジショニングの鉄則は、パートナーと「目に見えないロープ」で繋がっているイメージを持つことです。

パートナーが右に動けば自分も右へ、前に出れば自分も前へというように、常に二人の距離感を一定に保ちながら動くことが重要です。

特に、ボールを打った方向(ボールがある位置)に合わせて、二人で平行移動する「シャッフル」の動きを意識すると、守備範囲に穴ができにくくなります。

もし、一人がネット前、もう一人がベースラインという状態が長く続くと、真ん中のスペースを狙われやすくなる傾向があります。

理想的なポジショニングと、避けるべき配置を比較してみましょう。

配置特徴メリット・デメリット
二人ともネット前最も強い陣形攻撃の主導権を握りやすいが、ロブ(頭上を越す球)に弱い
斜めの配置一時的な守備陣形攻撃されやすく、センターに隙ができやすい
二人とも後ろ完全な守備態勢相手に攻撃され続けるため、ジリ貧になりやすい

ポジショニングを改善するためのチェックポイントは以下の通りです。

  • パートナーとの距離は、手を広げて少し触れる程度(約2〜3m)をキープする
  • ボールがセンターラインを超えたら、二人ともボールサイドへ寄る
  • 打った後は、その場で止まらず、次のポジションへ移動してから構える

「自分が打ちやすい場所」ではなく、「ペアとして穴がない場所」を探す意識が、チーム力を底上げします。

相手の利き手側を攻める理由

「相手の弱点であるバックハンドを狙え」というのは定石ですが、中級者レベルになるとバックハンドの守備も堅くなってきます。

そこで有効なのが、あえて相手の「利き手側(フォアハンド側)」、特に「右腰や右脇付近」を狙う戦術です。

ここは「チキンウィング」と呼ばれるポイントで、フォアハンドで打つには近すぎて窮屈になり、バックハンドで処理するにも体勢が厳しくなる「死角」のような場所です。

相手の正面、かつ利き手側の身体に近い位置へボールを送ることで、相手は肘が詰まったような状態になり、コントロールを失いやすくなる可能性があります。

また、常にバックハンドばかり狙っているとコースを読まれてしまうため、裏をかいてフォア側へ打つことも大切です。

利き手側を攻めることで得られる効果を整理しました。

狙う場所相手の反応期待できる効果
利き手側の脇腹・腰肘が曲がり窮屈になる強いボールが返ってきにくく、チャンスボールになりやすい
利き手側の遠いサイド手を伸ばして打つコートの外へ追い出し、センターにスペースを作れる
利き手側の足元目線が下がるボールを浮かせやすくなる

この戦術を成功させるためのポイントは以下の通りです。

  • 相手の利き手が右手か左手かを、試合前の練習で必ず確認する
  • 速いボールで体の近くを狙い、相手に考える時間を与えない
  • バックハンド狙いを見せかけて、不意にフォア側へ打つ

「フォアハンド=強打される」という思い込みを捨て、相手を詰まらせるためのターゲットとして狙ってみてください。

ミドルボール問題|誰が取るか明確にする

二人のちょうど真ん中(センター)に来たボールに対し、「お見合い」をして見送ってしまったり、ラケット同士がぶつかったりした経験はありませんか?

「ミドル(センター)」は、ダブルスにおいて最も狙われやすく、最もミスが起きやすい魔のゾーンです。

この問題を解決するための世界共通のセオリーは、「フォアハンドで打てる人が取る」と決めておくことです。

例えば、右利き同士のペアなら、左側にいるプレーヤーがフォアハンドでセンターをカバーすることになります。

もし、右利きと左利きのペアなら、両者がフォアハンドで打てる強力な配置か、逆に両者がバックハンドになる弱点ができるかのどちらかになります。

迷いをなくすための優先順位を、以下の表で確認しておきましょう。

ペアの利き手センターのボールを取る人理由
右利き & 右利き左側のプレーヤーフォアハンドで力強く打てるため
右利き & 左利きフォアハンドになる側二人ともフォアなら、先に声を出した方、または対角線に打てる方
初心者 & 上級者上級者カバーできる範囲が広く、ミスが少ないため

とっさの判断を助けるためのルールは以下の通りです。

  • 「Me(マイ)!」や「You(任せた)!」と、大きな声で意思表示する
  • 迷ったら、フォアハンド側の人が強引にでも取りに行く
  • センターへのボールは、基本的に「クロス(斜め)」へ打ち返すのが安全

お見合いによる失点は、メンタルへのダメージも大きいため、事前のルール作りが勝利への鍵となります。

ディンク戦で優位に立つ駆け引き

ネット際でのディンク(柔らかいラリー)は、単なるつなぎのショットではなく、相手を崩すための高度な心理戦です。

ただ漫然と返しているだけでは、いずれ相手に主導権を握られてしまいます。

ディンク戦で優位に立つためには、相手を「動かす」ことと、相手の「バランスを崩す」ことを常に意識する必要があります。

例えば、相手の右足側に落とした次は左足側へ、あるいはセンターへ打った次はワイド(外側)へ打つなど、相手に定位置で打たせない工夫が有効です。

相手が体勢を崩してボールが少しでも浮いたら、すかさず攻撃に転じる準備をしておきましょう。

ディンク戦で意識すべき駆け引きのポイントは以下の通りです。

  • 相手が打ち終わった直後の、戻りきれていない場所(オープンスペース)を狙う
  • 時折、相手の利き手側の足元深くに速いディンクを混ぜる
  • 我慢比べになっても焦らず、ネットの少し上を通す安全な軌道を保つ

具体的な狙い所と効果を以下の表にまとめました。

狙い所効果リスク
相手の足元(靴ひも)ボールを浮かせやすいネットにかけるリスクがある
バックハンド側コントロールを乱しやすい読まれやすく、回り込まれることも
センターライン上相手ペアの判断を遅らせる角度が甘いと強打される

ディンクは「待ち」の姿勢ではなく、静かなる「攻め」の姿勢で行うことが、上級者へのステップアップにつながります。